てふ(蝶)のはなし

初回は、てふの創業者のつぶやきです。

どうして「てふ」という名前になったのか。創業から現在に至るまでの思いを語っています。

 


 

執筆:株式会社てふ創業者 舛田誠二(ますだ せいじ)

 

「世界一美しい」と呼ばれる蝶を、知っていますか。

南米に棲息するモルフォ蝶(Morpho butterfly)という、青く輝く蝶です。

 

 

光が当たる角度によって、青にも緑にも見え、羽を動かすたび、色も輝きも変わっていく。
まるで宝石のような蝶です。

 

私は子どものころから、モルフォ蝶に魅せられてきました。

そして、てふの原点でもあります。

今回は、私と蝶との縁から、てふが生まれるまでの話を、ゆっくりとしてみたいと思います。

 


 

株式会社てふ、創業者、舛田誠二です。
今年で、86歳になります。

 

 

現在は、南阿蘇の山の中で、庭をつくりながら暮らしています。

朝起きて庭へ出て、木や草花を眺めながら、穏やかな日々を過ごしています。

 

▲自宅から見える阿蘇山の景色です。

 

▲庭には、「幸せを呼ぶ青い蜂」として知られているブルービー(blue-banded bee)もやってきます。

 

現在は老齢ですので会社の運営にはほとんどタッチしていません。

私がこの会社をつくったのは1995年、55歳のときでした。

 

「てふ」とは、旧仮名遣いで「蝶」のことです。

なぜ蝶なのか。その話をするには、70年以上前まで遡らなければいけません。

 


 

私は、熊本市内で生まれました。蝶に興味を持ったのは、中学2年生のころ。

 

佐賀県から江本君という同級生が転校してきて、たまたま家が近かったので遊びに行ってみると、部屋には蝶の標本がたくさん並んでいました。

それが、なんとも綺麗で。こんなものが自然の中にいるのか、と驚きました。

 

それまで蝶に特別な興味があったわけではありませんでしたが、その標本を見た瞬間にすっかり魅せられてしまい、江本君と一緒に蝶を採りに行くようになりました。

 

高校生になるころには、むしろ私のほうが夢中に。

20歳ほど年上の、熊本ではよく知られた蝶の収集家の方とも知り合い、二人で阿蘇の山へよく出かけました。

 

当時の私には、どうしても見つけたい蝶がいました。

「世界一美しい蝶」と呼ばれるモルフォ蝶に似た、ミドリシジミの仲間です。

 

当時、ミドリシジミの仲間の多くは熊本ではまだ発見されておらず、九州でもほとんど見ることのできない希少な蝶。

緑色の羽が光を受けると美しく輝き、見る方向によって、その色が鮮やかに変わります。

10 代の私にとって、いつか自分の目で見てみたい、憧れの存在でした。

 

 

高校2年生のある日、いつものように阿蘇の山の中を歩いていると、柏の林の中で、ふと緑色に光るものが目に入りました。ハヤシミドリシジミです。

見つけた瞬間、身体が震えました。逃がさないように、震える手を抑えながら、そっと捕まえました。

 

あのときの興奮と感動は、言葉にすることができません。

自分がずっと探していたものが、本当に目の前に現れた。

目にした光景は、今でも鮮明に覚えています。

 

熊本県でミドリシジミの仲間が初めて発見されたことは、地元ではちょっとしたニュースとなり、日本鱗翅学会(にほんりんしがっかい)にて、記録として残されました。

 

それから、ずいぶんと長い時間が経ち、私は熊本を出て東京の大学へ進学。
エネルギー関係の会社に入り、長い会社員生活を送りました。

そして55歳のとき、子供たちが自立をし始めたことをきっかけに、会社員生活を終え、自分で商売を始めることにしました。

 

起業にあたって様々な選択肢がありましたが、ただお金を稼ぐことだけを目的にするのではなく、心が躍るようなワクワクを感じながら仕事をしたいと考えました。

そして、タイ、インドネシア、マレーシア、ミャンマーなど、東南アジア各国を巡って調査を行い、私が最終的に選んだのはベトナムの工芸品でした。

 

ベトナム人の手先の器用さや勤勉さと、長い王朝体制の下で育まれた民衆の工芸文化に、無限の可能性を感じたのです。

 

▲創業初期に注力していたベトナムの陶磁器工場にて。資金を投じて高温の焼成が可能なガス窯を導入し、飛躍的に品質を向上させました。

 

年間で100日を超えるベトナムでの生活の中で、あるとき一つの素材に出会いました。白蝶貝(Mother Of Pearl)です。

 

ハイジュエリーにも使われる非常に高価な素材で、光線や角度によって色や輝きを変える、生きた宝石のような貝です。

 

白蝶貝に出会った瞬間、阿蘇の柏林で、初めてハヤシミドリシジミを見つけた興奮にも似た衝撃が走りました。

また、「白“蝶”貝」という名前にも、運命めいたものを感じました。

 

 

白蝶貝に出会ってからしばらくして、会社の事業を、貝と水牛角に絞ることにしました。

日本ではほとんど需要がない素材ですから、無謀な決断だったともいえるでしょう。

実際、会社の収益はずっと苦しく、やめようと思ったことが何度もありました。

 

でも私を含め、てふの社員はなぜか、笑顔でずっと前を向いていてくれました。

それが、貝が持つ不思議な力なのだと思います。

 

自然がつくるものには、人間には真似のできない美しさがあります。

人間が計算してつくったわけではない。

「なぜこの色なのか」「なぜこの模様なのか」。そんなことを考えても、答えはありません。

作為がないからこそ、美しく感じるのかもしれません。

 

だから、てふの製品は、まず見てもらい、手に取ってもらいたい。

説明はあまり必要ありません。

見た人がどう感じるのか。それだけで良いと思っています。

 

 

社名に「てふ」という名前をつけたのも、自分の人生に一番似合っているような気がしています。

言葉では説明できない、「理由のない美しさ」に魅せられて、今日まで続けてこられたのかもしれません。

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